あの電車の30分を、
自分の世界にしたかった。

個人開発

わたしも、毎日おなじ電車に乗っていました。
おなじ時刻、おなじ車両、おなじ吊り革。窓の外の景色まで覚えてしまうくらいの、あの往復です。

会社に着けば、こなすべきことがある。家に帰れば、また明日がある。その間にある30分だけは、誰のものでもない時間のはずなのに——実際には、頭の中はもう仕事の続きだったり、送り忘れたメールだったり、言われた一言だったりする。体は電車に乗っているのに、心は既に職場に置いてきたままでした。

スマホを開いても、流れてくるのは他人の生活と、また別の誰かの意見です。時間は潰れる。でも、軽くはならない。

逃げ場ではなく、行き先がほしかった

ほしかったのは、気を紛らわせるものではありませんでした。ちゃんと「私だけの」場所です。

それも、誰かが用意した物語をなぞるのではなく——自分で決めた世界に、自分で決めた人間として立てる場所。上司も、締切も、空気を読む必要もない。名前も、生まれも、力の使いみちも、全部こちらで決めていい。そういう世界なら、乗っているあいだだけは本当に別の場所へ行ける気がしました。

だから、このゲームは片手・文字だけ・一駅ぶんで作ってあります。音は要りません。画面を注視しなくても読めます。地下で電波が切れても、そこまでの物語は手元に残ります。派手さのためではなく、あの車内で成立させるための設計です。

『我儘に』という名前について

毎日、あちこちに気を遣って生きています。
このゲームの中でくらいは、遠慮なく、思ったとおりに——聖人として讃えられてもいいし、街ひとつを敵に回してもいい。誰にも許可を取らなくていい世界を、ひとつ持っていてほしいと思って付けた名前です。

心を軽くして、降りてほしい

この30分で、抱えているものが消えるとは思っていません。仕事は明日も待っているし、しんどさは電車を降りたら戻ってくる。

それでも、頭の中の重いものを、少しのあいだ脇に置ける場所にはなれると思っています。自分で作った世界のことを考えているあいだは、少なくとも会社のことは考えていない。私がこのキャラクターとどういう関係性を作りたいか、彼に何を言えば説得できるのか。少なくとも、降りるときに、乗ったときより一段だけ肩の力が抜けている——このゲームが目指しているのは、それだけです。


おまけ:なぜ「AI任せ」にしなかったか

AIと物語を作る遊びは、最初の三十分がいちばん面白い。問題はそのあとです。助けたはずの人が初対面のように振る舞い、渡した剣が消え、勝てない相手に勝ってしまう。長く遊ぶほど、世界の辻褄が合わなくなる。

原因は物覚えの悪さだけではありません。成否も数値も因果もぜんぶAIの気分に任せていることそのものでした。文章の上手いモデルほど、その場の盛り上がりに合わせて数字のほうを曲げてしまいます。

そこで、役割を分けました。賽を振るのはエンジン、言葉を書くのはAI。命中も、傷の深さも、あなたの企ての残り日数も、プログラムが先に決めます。AIはその決まったことを物語にするだけで、覆せません。

だからこの世界では、能力値が本当に効きます。強敵は一撃で倒れず、倒していない相手の剣は拾えず、去った人はあなたを覚えている。能力値も、あなたが書いた文章から生まれます——「元・外科医」と書けば手術の技を持って始まり、「三メートルの巨躯」と書けば力を得て素早さを失う。設定は飾りではなく、そのまま仕様になります。

個人で作っています。AIの応答には費用がかかるので回数制にしていますが、無料で試せる範囲があり、買った回数に期限はありません。おかしな挙動を見つけたら、ゲーム内の「🐞 不具合を報告」から送ってください。全部わたしが読みます。

『異世界の生活は我儘に』
2026年7月29日
⚔ 自分の世界をつくる

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